吃音症状が現れはじめることを、「発吃(はつきつ)」といいます。
この「発吃」の原因は、いまだに明らかにされていません。
さまざまな説が唱えられていますが、迷信などを除き、主に2つの説に分けられます。
まずひとつは、精神的、心理的な問題が原因とする考え方です。
例えば、
- 家族(とくに母親)の接し方が悪かった
- 話し方を注意した
- 利き手を変えた(左利き→右利き)
- 転居などによって、環境が変わった
- 事故のショック(自分が遭遇した、もしくは目撃した)
- 極端な緊張
などがあげられ、これらのストレスが、精神に異常をきたして起こると考えます。
最初にあげた、「家族(とくに母親)の接し方が悪かった」というのは、わりと近年まで浸透していた説で、子どもの身近な人、とくに母親が 悪の根源のように考えられてきました。
子どもと一番接する時間が長いのは母親であるから、その母親に原因があるのではないかというのです。
しかし、現在では、要因のひとつにはなりうるが、それだけが吃音を引き起こしているとは考えられないといわれています。
また、ストレスによる原因以外にも、
- 吃音者の話し方をまねしていた
- 吃音者の話し方がうつった
と訴える人や、
- 物心ついたときには、すでに吃音だった
- 言葉を話し始めた時から吃音だった
など、天性のものだと考える人もいます。
このほかにも、家系に吃音者がいる場合、発吃の確率が高くなるという調査結果もあるため、遺伝説も存在しますが、吃音者のいる家系では子どもの話し方に非常に敏感になるため、話し方を注意するなどして、必要以上に話し方を意識させてしまうからだともいわれています。
しかし、いずれも「説」にすぎず遺伝に関する明確な裏づけはありません。
原因のもうひとつは、 吃音の発症率に男女で大きく差が出ることから、体の器官や神経などに、明確な支障があるという考え方です。
これまでは、男児の発症が多い理由としては、
- 将来の期待が大きい
- きびしい教育
- 過保護
などによって、男の子、とくに長男に対する育児に差が生まれ、それが子どもにとって大きなプレッシャーとなってしまうためではないかと考えられてきました。
しかしながら、現在では、そのような理由ではなく、男児は、女児に比べて神経の発育が遅く、その、神経が未熟な幼児期に何らかの異常が起こって発症するのではないかという説があります。
さらにはこれら以外にも、男性は複式呼吸が多く、女性は胸式呼吸が多いという違いから、呼吸法が原因しているのではないかという説も唱えられ始めました。
事実、吃音者とそうでない人とを検査し、神経系統の動きに差が見られるとい結果も出ているとのことです。
さらに、呼吸については、赤ちゃんはみな腹式呼吸ですが、3~4才を境に、多くの女児が胸式呼吸に変化していくのに対し、男児はそのまま腹式呼吸を続けるなかで、何らかの問題が起こるために男性の吃音者が多くなるのではないか、と考える説や腹式呼吸が肩呼吸に変化し、呼吸が浅くなるためだという説もあります。
また、このほかにも、吃音者とそうでない人の血液検査を行ったところ、差が見られたという結果もあります。
このように、発吃の原因は、体の異常にあるとする研究・調査は進められているのですが、現在のところはまだ、一因とは考えられても、決定的な原因だと断定できるものはありません。